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[Another Side of Tennis] 木曜更新 毎週木曜日発行 無料テニスメルマガ[REC TENNIS EXPRESS]連載 テニスエッセイ

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Scene 85 [No Advantage]

[Another Side of Tennis]
坂東海

Scene 85
[No Advantage]

随分前だが、何の金だったかお袋に10万手渡しして数日経った時、その金が「見当たらない」って事になり家中を探す破目になった。
結局見つからずさぞ落ち込んでいると思いきや、その晩「お寿司食べ行こう」。
「こんな時はもっと使っちゃった方がいいのよ」
親父に随分苦労させられたお袋のタフさなんだろう。

<財布知らない?>
今回はお袋でなく、女からのメール。
Callして聞けば、現金8万とカードが3枚入っていた財布をなくしたらしい。

「そんな果した金気にすんなよ」と言いかかったが、俺の態度には似合っても現実では到底そうじゃないから「ワオッ!Big Money!」とおどけて見せる。
でも電話の向こうは浮かない感じ。
(そりゃあそうだよなあ、何とか盛り上げてやるか)
電話を切ってしばし考えを巡らせた後、番号をPush。

「あのさあ明日のJapan Openの決勝のチケット2枚手に入らない?一番高い席」
電話の相手が毎年ロイヤルボックスシートゴールドを買っているのは知っている。
渋る相手を煽てて脅して口説く。
結局、「確かに仕事で何時に着くかわからないんだけどさあ」と元々弱気になっていた相手と、定価の1枚1万7千円で2枚の3万4千円と、今度の呑み代+タクシー代で手を打った。

翌朝、バイク便で送らせたチケットとパーキングパスを持って湾岸に乗る。
車をコロシアムに横付けして、決勝らしいざわめきのロビーに入る。
VIPルームでハイネケンを流し込んでから席に向うと、いきなり目に飛び込んで来たのはゴロビンのローライズ。
でも「半ケツを下す!」なんてジョークを飛ばしてるうちに彼女はリタイア。
次の男子決勝は、アンチッチのリターンに感心して、そのアンチッチのマッチポイントで見せたムーディーのフォアのストレートのパスに思わず声を上げる。

そして鈴木貴男・岩渕聡のダブルス。
1stに続いて2ndも4-4でタイブレーク。
サドンデスが要所要所で彼等に有利に働いたのと、スリリングな展開にATP新ルールへの文句は出て来ない。
マッチポイントとセットポイントの行き来の末の14-13。
岩渕のサーブ、1stボレー、そして…。
ロイヤルの連中も皆立ち上がってのスタンディングオベーション。
俺はちょっとだけ泣いていた気がする。

上機嫌でゴールデン街に車を飛ばし、俺はフォアローゼスのジンジャエール割り、帰りの運転がある奴は讃岐うどんの妙な組合せで盛り上がる。
「貴男と岩渕の優勝しびれたなあ」
「賞金総額$860,000と男子シングルスの賞金$118,000っていくらになるんだ?」
「大体110円だから、9千500万と1千300万?」
「スゲエなあ。俺その端数の300万でいいや!」
「私8万でもいいなあ」
……。
「あのさあ…、そう言えば大リーグどうなった?」
「えっ?!あっ、ああ…」
(あといくら使えばいいんだ…)

ちなみにお袋の金は、回収に出そうとした古新聞に挟まっているのが見つかった。
さて今回は…。

2005.10.9
Golden-gai
エッセイ | 投稿者 坂東海 00:01 | コメント(0)| トラックバック(0)

Scene 84 [Core]

[Another Side of Tennis]
坂東海

Scene 84
[Core]

「たまには酒を呑まずに散歩するか」と、焼き鳥屋にも焼肉屋にも寄らず、家族で野外ステージの方へ自転車を漕いで行く。
殆ど使われる事のない野外ステージに人だかりがしてる。
近付くと[吉祥寺アニメワンダーランド]って催しらしく、いろんなアニメ制作会社のブースが出ていて、ステージからはカラオケをバックに声量タップリでビブラートを効かせたボーカルのアニメソングが聞こえて来る。

止まらずに後ろを抜けて行ったが、頭の上で手拍子する若いカップル、ちょっとオタクな男等々で一杯。
ある種、マニアックな雰囲気はあるものの昼間の公園に似合わない光景ではなく、他にもステージは関係なく弾き語りしてる奴、パフォーマンスをしてる奴、宴会してる奴等、家族連れと皆がのんびりしている。

ガキのブランコを押してやりながら、(コアだよなあ…あいつら)と盛り上がっているステージに目をやる。
さっき通った伊勢丹の前でも何かやってたなあ。
この公園はジブリ美術館も隣接してるし、そういう街って言えばそうなんだろう。
ジブリと言えば、スタジオジブリはウチからすぐ。
送電線の真下で…まあこれはいいか。

翌日、有明に向う。
AIG Japan Open初日。
酷い渋滞も無く車は進んで行くが、それが有明の客入りとリンクしている気にもなる。

そして有明着。
コロシアムに入ると…。
ワオッ!初日とは思えない客の入り!
勿論満員なんかじゃあない。
でも「誰もいないんだから前行っちゃおうぜ!」とコートサイド席に入って行ける感じではなく、空席にも誰かが来そうな雰囲気が漂ってる。
イベント広場も人が行きかい賑やかで心地良い。
中高生が目立つのは体育祭の代休なんだろう。

アウトコートでの鈴木貴男・岩渕聡のダブルス、森上亜希子・佐伯美穂vs中村藍子・小畑沙織のダブルスは、小さいとは言えスタンドは満員。
更に浅越しのぶのシングルス、負けはしたけど杉山愛森田あゆみのダブルスに一藤木貴大のシングルス。
観客席からは控え目だけど静かな期待を感じた。

初日から見所多いじゃん。
Hey!初日の月曜日から観に来た“コアなテニスフリーク”!
1週間楽しもうぜ!

2005.10.3
Ryogokubashi
エッセイ | 投稿者 坂東海 00:01 | コメント(0)| トラックバック(0)

Scene 82 [ようよう]

[Another Side of Tennis]
坂東 海

Scene 82
[ようよう]

コートにブラシをかけてた。
「テニスやってたんですか?」
俺と年格好がそう変らない男が声をかけて来た。
若く見えるけど40位だろう。
「コートでブラシかけてるんだから当たり前だろう」
とは言わず、「ええ、ガキの頃にちょっと」と答える。

奴が「テニスやってたんですか?」と“過去形”で、しかもコートでブラシをかけてる最中の俺に聞いてきたのも当たり前だ。
俺はヘルメットにニッカボッカ。
ここには足場のバラしに来てる。
一つ能書き垂れておくとニッカボッカって呼び名は、ニッカーボッカーズって言うオランダの膝下で留める半ズボンから来てるらしい。

「若い人に“コートの中に入るんじゃねえ”って言って、ベースラインの後ろ通らしてるし、おまけに今のブラシのかけ方もただかけてるんじゃなくて、最初から最後迄止めないからすぐわかりましたよ。レッスンに気を使ってもらってありがたかったです」

親方から言われた現場はデカイ大手スーパー。
屋上の看板工事の足場のバラシ。
着いてみたら屋上にはテニススクール。
俺等がバラしてる真下でレッスンが始まる。
気にしてる暇はないが、ボールを打ってない時は皆がこっちを見てるのがわかる。
20前半だろうか、やたら一生懸命で活き活きとボールを追いかけて、デカイ声で客を励ましてるコーチがいる。

昼飯に行く前に一服してると、レッスンが終っても独りでサーブを打ってたさっきの元気のいい兄ちゃんがコートから出て来た。
「暑いっすね!いつ迄っすか?」
「今日バラしたのを明日あんたらの営業前にコートを横切って向こうに出して、クレーンで降ろして終りかな」
なんて会話をしてたら、思わず「1球打たせてくれない?」と口走っていた。

「いいっすよ」と兄ちゃんが貸してくれたラケットを持ったら軽い軽い。
“俺が試合出てた頃はみんなウッドでさあ、プリンスがデカラケを出したばかり…”なんて言いそうになったが、それは口にせずコートで兄ちゃんと向かい合う。
「行きますよ」と兄ちゃんがサーブを打って来る。
明らかに手を抜いてくれてるが、ちゃんと返せないって言うか飛ばない。
ラケットの性能も上がっているんだろうに。
ウチの若いのがニヤニヤこっちを見てる。
何回か打っても埒が明かないんでもう終りにしようと、「ねえっ、思いっ切り打って!」と言う。
「はい!」と打ち込んで来たサーブは速ええのなんの。
当たるどころか動けもしやしねえ。

そんな昨日があっての今朝。
資材を出すのに手間取って、レッスンの頭に食い込んじまった。
何とか球が飛び交う前に大まかには終ってホッとしてたら、残った資材を慌ててコートの中を横切って運んで行く若いのをテニス部の部長だった時みたいに怒っちゃって、俺等が通った辺りのコートの砂が気になってブラシをかけてた訳だ。

最後の確認を終えて出て行こうと何気なくコートを振り返ったら、俺と同じ位のコーチが黙礼をしてくれて、奥のコートで兄ちゃんが手を挙げてる。

何か気分いいじゃねえか。

2005.9.16
calcium
エッセイ | 投稿者 坂東海 00:01 | コメント(0)| トラックバック(0)

Scene 81 [Rough Justice]

[Another Side of Tennis]
坂東 海

Scene 81
[Rough Justice]

部屋に戻って[A Bigger Bang]をかける。
Keithの空ピックからのイントロのリフだけでぶっ飛ぶ。
“Rough Justice=ひでえ報いだよな”とMickが唾を飛ばす。
Ronnieのスライド、Charlieの太鼓も凄い。

音を消したTVじゃプロレス。
HERO’Sっていう団体だか、興行らしい。
山本 “KID”徳郁いいなあ。
宇野薫と所英男が戦った後お互いに敬意を示す態度に、“強い者同士”の清々しさを感じて思わず酒が進む。
須藤元気が背中を見せながら相手の攻撃をかわすのを観て、(こいつ勇気あるなあ…。トリックなんかじゃないぜ)と感心する。

氷を取りに行ってる間に、画面には山本 “KID”徳郁と須藤元気と肩を組み、カメラマンに見栄を切る前田日明が映っていた。
(あれっ!?前田じゃん!?そっかあ、だからいいFightばかりだったんだ!)と納得。
俺は別にプロレスファンって訳でもないんだが、一時期、前田日明のリングスの試合を追いかけていた。
奴のFight、そして奴の打つ興行は信頼出来た。
横浜アリーナでのカレリンとの引退試合は遠くの席で観た。

曲は“Driving Too Fast”。
足が勝手にビートを刻む。
奴等がライヴで演ってる姿が浮かぶ。
全くなんてカッコイイんだ。
独り浮かれながら、夕刊を読んでない事に気付いてパラパラと捲る。

シャラポア「全米4強」”、その下に小さく“杉山、混合も敗退”。
先を読むと、“ペトロワ握手拒否”。
何でもシャラポアとの試合の後の握手を拒否したらしい。
さっき宇野薫と所英男の気持ちいいFightを観た後だけにがっかりする。
(テメエ、試合に勝ってても握手拒否したんだろうな!)と怒りが持ち上がる。
それに対して記事は“両者の意地が伝わって来た”と締めくくられていた。
(話題になりゃあ何でもいいんだな、こいつ等は…)

そんな夜もあって今は9月12日未明。
アガシフェデラーの決勝が始まった。
今1st、キープキープで1オール。
アガシと、1998年札幌のホテルのTVで観てたU.S.Openのコナーズの勇姿がだぶる。
1991年U.S.Open、ノーシードでベスト4に進んだコナーズを思い出している人も多いだろうな。

「数日前仕事で行ったN.Y.のBarで隣を見たら誰がいたと思う?アガシだぜ!アガシ!」
聞き伝えの話だが、U.S.Openの最中にBarでグラスを傾けるアガシ
(噂好きな連中の為に言っておくと、横にグラフはいなかったってよ。)
俺の中で勝手に、BarのBGMは“Streets Of Love”。
MickのファルセットがBarに静かに流れてる。

2005.9.12
Hachioji
エッセイ | 投稿者 坂東海 00:01 | コメント(0)| トラックバック(0)

Scene 80 [真夏の葬列]

[Another Side of Tennis]
坂東 海

Scene 80
[真夏の葬列]

今からこの夏二回目の友人の親父さんの葬儀に行く。
去年は七月に二人の男を見送った。

“真夏の葬列”という言葉がふと浮かぶ。
北方謙三の小説のタイトル。
自分をフラットにしたい時、北方謙三の[檻]、ロバート・B・パーカーの[初秋]を読んだり、デ・ニーロの[タクシー・ドライバー]、M・ディロンの[アウトサイダー]を観る事が多い。
今夜は[真夏の葬列]を引っ張り出して読もう。

「いい学校に入って、いい会社に入って」の時代に育った俺等は、流れに身を任せて行くのだけは嫌だった。
とにかく“人と同じ”でなければ良かった。
俺達の武器はギターだったり、ラケットだった。
その武器を持ってしばらくして、俺達は自分の足で立っている事に気付いたんだ。

今じゃその武器を手放した奴も多い。
錆びた弦に伸びきったストリング。
勿論今でも弦やストリングを張替えている奴もいる。
いずれにせよ、たまにちょいと集まってそいつらを手に取った時、俺等は凛として、次の瞬間には腹の底から大笑いする。
いいだろ?この感じ。

外は土砂降り。
親父の通夜もとんでもない土砂降りだったな。
今から通夜の親父さんは享年75歳。
それもウチの親父と同じだ。
親父達は、(自分が最高!)そしてすぐに(自分は最低だ…)と一喜一憂していた向こう見ずで馬鹿な俺等を叱りもせず容認していてくれた。
まあ皆は知らんが俺は、最高!最低…と一喜一憂するのは今も相変わらずで、これからも変りそうにない。

よちよち歩きのガキが武器を手に取って、世間っていう敵に切り込んで行くのを口うるさいお袋達を黙らせながら、笑って見てくれていたであろう親父達に乾杯!
そして合掌。

2005.9.4
Tachikawa
エッセイ | 投稿者 坂東海 00:01 | コメント(0)| トラックバック(0)

Scene 79 [egoist]

[Another Side of Tennis]
坂東 海

Scene 79
[egoist]

「えっ、でも…」
レッスン後のミーティング。
不満げに口ごもっているのは、最近採用したばかりのアルバイトコーチ。
(ろくにテニスも出来ないくせに…)とは考えず、(このままじゃどの世界に行っても、うざったがられるだけだからなあ)と、彼が頷きやすい様にさっきのレッスンの話を進め、最後は軽く説教。

「えっ、僕そんな態度に見えましたか?」
異動でいくつかのクラブを観て来たけど、どこでもいつでもこの手の奴はいる。
一番酷かったのは、人手が足りない時間に入れるから重宝されている事を自分が能力があると勘違いしてた奴。
そいつは俗に言うフリーコーチだったが、「某スクールはもっと支給品がある」みたいな話を他のコーチに話して、体制を批判する自分に酔い、皆が頷く事で自尊心を充たす哀れな奴だった。
ちょっと雨が降ると「こんなんでやるんですか…」と文句を言い、雨中止が多くて給料が少ないと「ここは給料が安い」と文句言ってたりもしてたなあ。
大体このタイプは、自分にとって都合の良い悪いが、物事の良い悪いの判断基準になっている事に気付いていない。

条件が合わないなら辞めればいいと俺は考えてる。
勿論、もっといい条件でと考えるのも、闘うのも正しい。
でも自分が、まだ相手が勝手にいい条件を出して来る様なレベルでないと考えるのがもっと正しくないか?
俺達は上手く飼いならされた犬でも、丸く太っちまった豚でもなく、プロ、専門職なんだから。
まあ手っ取り早いのは、自分が条件を出す側になる事だ。

殆どの奴がまずは量で必要とされる。
それを質に転化して行けないで、量のみで必要とされたまま、勤務日数、レッスン数だけがキャリアになってる被害者意識の塊の奴等は本当に惨めだ。

俺は才能があったからやって来れたのもあるが、他人が苦しい、嫌だと思う事を何とも感じないのが今思えば武器の様な気もする。
体温並みに熱い炎天下、きつい要求…ドーパミンたっぷりにクリアして来たんだろう。
こう傲慢に言いながら、心の中でのたうちまわる夜が多いのも確かだけど。

「雨降りそうっすよ」
アルバイトが不安そうに言って来る。
居合わせたスタッフに
「レッスンが中止になるとは思うなよ。気持ちが切れるといいレッスン出来ないからな」
と声をかける。
皆頷いて又レッスンのシュミレーションを始める。
さっきは口ごたえしてたあいつも、コート図に配列を書き込んで考えてる。
何だかんだ言って皆真面目だ。
こんな俺について来てくれて感謝するよ。

「おしっ!行くぞ!次もいいレッスンしようぜ!」

2005.8.24
Yoyogi
エッセイ | 投稿者 坂東海 00:01 | コメント(0)| トラックバック(0)

Scene 78 [通り過ぎる夏]

[Another Side of Tennis]
坂東 海

Scene 78
[通り過ぎる夏]

自転車に乗る事が最近楽しくて仕方ない長男が、「吉祥寺まで自転車で行こうよ!」と言って来た。
外は炎天下。
でも家人と下の娘は車で買い物に行ってるから、車で行く訳にもいかない。
バスで行ってもいいけど、バス停まで結構あるし、そもそもバスに乗るのは大嫌いだ。
毎日レッスンで身体を動かしているから、休みの日に運動っぽい事をするのも余りないことだし。
ちょっと考えた挙句、(小学校の初めての夏休みに何かを成し遂げたって感じさせるのも必要だな)ともっともらしい理由で自分を納得させ、「OK!行こうぜ!」と返事。

(どの道がいいかなあ…)と車の通りが少ない道を考え、まずは自宅側の多摩湖への遊歩道に入り、東へ向かう。
木陰の多い涼しい道だが、やっぱり暑い。
途中、凍らせたアルカリイオン水を飲ませながら進む。

遊歩道が終った所は五日市街道と井の頭通りのT字交差点。
(あっ、何だよ、家から吉祥寺までって1回も曲がらないでいいんじゃん!)と井の頭通りに入る。
車でばかり動いてたから、こんな当たり前の事も忘れてた。
良く考えたら渋谷までも一本道って事だ。
井の頭通りは元々は村山貯水池の水を都内に運ぶ為の水道管路で、今は幹線となってるこの交差点より向こうも、昔は遊歩道みたいに盛り土してあったらしい。
俺もそうだが、この辺りの人達は今でも井の頭通りの事を水道道路と呼ぶ。

井の頭通りに入ってすぐ、大きな浄水場がありそっち側の高い歩道を選び、又進む。
当たり前だが、本当に一本道。
ひたすらペダルを漕ぐ。
いくらガキでも自転車同士で横に並んでは走れない。
ちょっと振り返って、「大丈夫か?」と聞くと「大丈夫!」と元気な返事。
でも言葉数は少ないけどいい感じだ。

三鷹を越すとあと少し。
途中、以前ダチが働いていたテニススクールがあって、久々に様子を伺いたくなるが足を止めたくなくて進む。
そして吉祥寺着。
車で来る時によく停めるガード下の駐車場の前を通り過ぎて、親子二人迷わず[いせや]本店横に自転車を付けて階段を上がる。

いつも通り「瓶ビール1本とコロッケ、もも焼き塩」とオーダー。
「家から真っ直ぐだっただろ?」
返事もそぞろにガキはもも焼きにかぶりついてる。
「頑張ったなあ!」と悪さの代償として取り上げてた奴の大好きなガラクタを取り出すと、驚いた表情になり、笑いを噛み殺してやがる。

ここんところずっと気に入ってる歌が無性に聴きたくなった。
来年俺は厄年だけど、それがどうしたって言うんだ。
まだまだ人生楽しめそうだぜ。

“俺は知らねえ 何も聞いてねえ 夏の記憶も 風に揺れる葉っぱ ぼんやりばっかしてる程 まだ涙は枯れてねえぞ 温泉行きてえなあ 海水浴に行きてえなあ 来年40 ”通り過ぎる夏/O.P.KING

2005.8.14
Sekimae
エッセイ | 投稿者 坂東海 00:01 | コメント(0)| トラックバック(0)

Scene 77 [異端児]

[Another Side of Tennis]
坂東 海

Scene 77
[異端児]

ヘルシンキでの世界陸上女子マラソンはラドクリフの優勝。
彼女の走り方は目が離せなくていい。
初めて観たのがアテネでの途中棄権だったからか、いつ止まってしまうのかというスリリングさでついつい応援してしまう。

でも彼女はれっきとした世界記録保持者。
2002年4月に世界記録2時間18分47秒にあと9秒のマラソンデビュー。
そして同じ年の10月に、2時間17分18秒の世界新記録樹立。
翌2003年4月には2時間15分25秒と、又自分の世界記録を塗り替えた。
今考えれば、アテネは確かに苦しかったのだろうけど、優勝しても同じ走り方だったんだよな。

マラソン選手の走るスピードはTV観戦じゃなかなか実感出来ない。
俺はガキの頃、当時の彼女と神宮外苑をブラブラする事が多かったんだが、あそこは全盛期の瀬古選手の練習場所で、俺等が手をつないで歩いてる脇を彼が何回も走り抜けて行ったのを覚えている。
速かったよ、とにかく。
あれで42.195km走るんだもんな。
話しは脱線するが、その頃始発かなんかで青山にチケットを買いに行った時に、ビクタースタジオの裏手辺りだったかなあ、あの辺で、下宿から外苑に練習に向うんであろう彼を見かけて、違う世界の人と感じたっけ。

さてラドクリフだ。
彼女の走りは、デビュー前はやはり“専門家”に「あのフォームじゃ…」と酷評された。
自分が通って来た固定観念、既成概念だけで、偉そうにしたり顔で物を言う奴はどの世界にもいるって事だ。
テニス界で今のトッププレーヤーのプレースタイル、フォームを10年前に予測、あるいは予感していた者はどれ位いるのだろう。
昔は軟式テニス出身者は例外なくグリップを薄く持ち替えさせられたが、Tennis Kidsがパワーとコントロールを追い詰めて行った結果、今じゃグリップは小学生でも硬式テニスの方がはるかに厚い。
極論、予測や予感は出来なくても、子供達の本能的な動き、斬新な発想を妨げない柔らかい頭がまず大事なんじゃないかね。

そう言えば、ロディックのシンプルなサーブのテイクバックは昔なら殆ど見なかった形だが、1970年代後半のビッグサーバー、ロスコ・タナーと似ている。
タナーは全豪優勝、全英準優勝の戦績を持ちながら、当時はまともに評価されてなかった気がする。
あの時代に220kmってのが速過ぎたのかなあ。
それにウッドラケットで、しかも天然芝の全英決勝でフルセットで勝っちゃうボルグも凄いんだが。

ところでラドクリフの走り方は“トカゲ型”と言うらしい。
これは、“フォームは左右対象が良い”と考えているタイプには、“競走馬が前脚と後脚がぶつからない様に、軸と進行方向が一致しないで斜めに走っている事実、高橋尚子選手も同様って事から考えてみなよ”って感じの理論だが、難しいねえ。

世の中には役割分担があるって事だな。
さて俺の役目は…とりあえず呑みに行くか…。

2005.8.15
Tamacho
エッセイ | 投稿者 坂東海 00:01 | コメント(0)| トラックバック(0)

Scene 76 [呉越同舟]

[Another Side of Tennis]
坂東 海

Scene 76
[呉越同舟]

携帯が世の中に出回り始めた頃、着信音を鳴らしたり人目もはばからず話す若い奴等に、「全くあんなもん」とまだ携帯に手を出してないおっさん、おばさんは訝しがってた。

それが今じゃ電車内で着メロが鳴ったり、デカイ声がするとたいていおっさん、おばさんが携帯に向かって喋ってる。
「取引先からの電話だから」「待ち合わせの電話だから」仕方ない、ちょっとだけならいいだろと、公共性のかけらもない美意識ゼロの感性で、得意の論旨の摩り替えをしてるんだろう。
まあ、あの失笑を誘う一人よがりの着メロを聞けば(いや、聞かせるだな)、奴等の日々のセンスの悪い暮らし振りが良くわかる。

最近茶髪が減って来てる。
女子高生のルーズソックス、短いスカートと比べると短い流行だった気がする。
そりゃあそうだろう、老若男女って感じで茶髪にしてりゃあ、感性のいい奴は嫌になる。

とは言え、車内で携帯、極端な茶髪のガキも相変わらずいる。
そういう目立つだけでリスペクトされない奴等と、着メロおっさん、おばさんの感性がイコールなのは笑える。
違うのはガキ共が環境、教育で変わる可能性があるのに、おっさん、おばさんにはその可能性がない事だ。

茶髪に関しては去年こんな事を聞いた。
「某国営放送はカラーナンバー6迄認めてる」
「某テニススクールでは7迄で、フロントスタッフは黒髪だと暗く、不潔に見えるから、染める様に指示してる」
どうせ、最初は煙たく思ってたくせに、余りに対象が多くなったんで対処し切れなくなっただけだろうよ。

自分の中に掟がない奴は、どこにいようが、いつになっても漂うだけだ。
とりあえず溺れる前に舟に引き上げてもらえよ。
でもあんたが乗る舟はいずれにしろ泥舟だ。

2005.8.7
ZONE
エッセイ | 投稿者 坂東海 00:01 | コメント(0)| トラックバック(0)